
松本市は長野県において人口では長野市に次ぐ2番目の都市だが、地理的には県のほぼ中央に位置する。中世は深志と呼ばれ、信濃の国府が置かれていた。北国西・千国・飛騨・伊奈・保福寺の各街道は松本を起点とするか、もしくは通過しており、交通の要所でもある。そのため松本は古くから物資の集積場となり商業都市として発展した。日本人なら誰でも知っている「敵に塩を送る」という諺は、今川・北条両家の経済封鎖によって塩不足で苦しんでいた甲斐武田家のために宿敵である越後の上杉謙信が塩を送った(もちろん無償援助ではない)故事来歴を指すのだが、この時に糸魚川から千国街道(糸魚川街道・姫街道とも呼ぶ)を通って、第1集積所となったのが松本である。信州はもともと伝説の豊富な土地であるが、松本にまつわる伝説はやはり商業に関するものが多く残る。松本市郊外、狩谷原峠の入り口にある伊深という集落にある「商人石」は、昔、追いはぎに殺された商人が石になったもので、松本の物価が上昇する兆しがある時は、積み重ねたように高くなり、下落する時は崩れて道をふさぐこともあるといわれている。道徳っぽい話でも、オカルトっぽい話でもない、世俗臭に満ちた民話が商都にふさわしくてとてもいい。 |