スキン・ステンレスカー

1960.5. 田園調布駅 Photo by: T. Satomi
福実車輌さんよりご教示頂きました。
鉄道が誕生した瞬間から車輌の軽量化は鉄道関係者にとって永遠の課題と
なった。車体が軽くなればエネルギーを節約でき、軌道への影響も少ない。
また上り勾配での登坂能力も下り勾配での抑速能力も少なくてすむ。
更に車体を軽くすれば自然に重心が下がるので高速走行でも安定する。
すべて好都合である。
車体を軽量化する方法は単純にいってふたつある。素材の使用量を少なく
するか、比重の軽い素材を使うかである。但し、いずれの方法にも問題が
あって、まずむやみに素材の使用量を節約すると車体の強度が下がる。
鉄道車輌の車体には一般に圧延鋼板が用いられるが、耐用期間が非常に
長い鉄道車輌の場合、一定の度合いで錆が発生するのは避けられないので
板厚を思い切って薄くすることができないのである。
では錆びない素材を使えばどうか? 問題は一挙に解決する。ということで
採用されたのがステンレス。ステンレス鋼板はクロムを含んだ鉄を主成分とし、
クロムが空気中の酸素と結合して酸化クロムを形成、この酸化クロム被膜が
鋼板の表面に形成されると錆が内部に進行しなくなる。
これを不動態化と呼ぶ。
「錆びない」というのは素晴らしいことで、車体の軽量化と同様あるいはそれ
以上にメリットがあるのは、表面の塗装を省略することができ、車体の防錆に
要する工数とコストを大幅に削減が可能となる。東急電鉄の調査では、
新製後10年目の車輌の場合で、ステンレス車輌の保守所要時間は鋼製
車輌の10分の1以下であるとしている。ほぼメンテナンス・フリーに近い状態
が実現できるわけで、戦後は国鉄でも私鉄でも地下鉄でも数多くのステンレス
車輌が誕生してきた。
もうひとつの比重の軽い素材を使う方法としてはアルミ合金やFRPがあり、
こちらも最近の鉄道車輌にはどんどん採用されている。
但し、どちらの方法についても共通した大きな欠点がある。素材コストが
いずれもバカ高く、ステンレスは鋼板の5・6倍、アルミ合金は7・8倍もする
ので車輌製造コストが飛躍的に高くつく。結局、鋼製車体とするかステンレス・
アルミ製車体とするかは、メンテナンス・フリーとなる分の工数及びコスト削減
分との損益分岐比較ということになるのである。
前置きが非常に長くなってしまったが、この両者の長所・短所を融合するため
スキン・ステンレス車体、あるいはセミ・ステンレス車体と呼ばれる方法が
案出され、1958年(昭和33年)にデビューした東急電鉄5200系に採用された。
これは一般鋼材でできた鋼体の表面にステンレス鋼板を張り付けるもので、
オール・ステンレス車体より製造コストがかなり安く、車体の軽量化という点
ではほとんど効果はないが、メンテナンス・フリーの方に重点を置いたもので
ある。国鉄でもサロ95形900番台にスキン・ステンレス方式が採用され、
「七色に輝く車体」と宣伝された。
しかし実際に使ってみると始めのうちはいいが、年がたつにつれ鋼板部分は
普通に腐食するため鋼板とステンレスとの接合部分のスポット溶接が剥離
するというトラブルが多発するようになり、またステンレス部分は強度の関係
でコルゲート状になっており、これが非常に汚れやすくて清掃を少しでも怠ると
「ドブ鼠色に輝く車体」に変化してしまう。中途半端な後方の採用によって、
結局メンテナンス・フリーとはならなかったのである。国鉄モハ95形900番台
の場合はたまりかねて後に一般塗装が施され、この時点でスキン・ステンレス
車体のメリットはすべて失われた。
一般社会でも複数の方策からひとつを採用する場合、その決定にあたっては
総合評価表、すなわち「星取表」を作って比較検討することがよく行われる。
スキン・ステンレス車の場合も導入検討の時点では星取表の評点が最も
高かったのであろう。
しかし総合評価を行う上で注意しなければならないのは、得てして各方策の
長所・欠点を融合した中間的なものが採用されがちになる点であり、こういう
折衷案的な方策はどの長所も充分に発揮できないという結果に終わることが
多いものなのである。(里見)

1960.5. 田園調布駅 Photo by: T. Satomi

