動力逆転機

1974.3. 追分機関区 Photo by: J. Satomi

蒸気機関車の進行方向を変える装置が逆転機で、運転席から逆転棒を動かす

ことによってそれに連なる加減リンク内の滑り子を前進、後進位置に移動させ

るのである。

この逆転棒を動かす方法としては手動式と動力式とがあり、手動式には更に

細分するとテコ式とネジ式とがある。近代形の蒸気機関車は大抵がネジ式に

なっていた。機関車がバックする際に機関士がものすごい勢いで手前のハン

ドルを回しているのをご覧になった方も多いと思うが、これが逆転ハンドルで

ある。

一方、動力逆転機の方は乗務員の労力軽減のため逆転棒の動作を圧縮空気

で行うようにしたもので、上の写真の円筒形の部分がエア・シリンダーになって

いる。

動力逆転機は1935年(昭和10年)に誕生したD51形蒸気機関車(1次型)に

標準装備されたが、期待に反して乗務員の評判はあまりよくなかった。

逆転機は前進・後進を切り替えるだけでなく、発車時に給気行程の締切比

(カット・オフ)を調整する役割を持ち、動力逆転機ではこの微調整が難しい

からである。ちょうど最新式の電動ミシンよりも旧式な足踏みミシンの方が

微妙なワザが使えるので通が好むのと同じ理屈だ。

というわけでD51 101号機以降のいわゆる標準型はまた手動のネジ式に

戻されてしまった。また動力逆転機は戦後製のC57やC59にも標準装備され

たが、同じ理由でネジ式に改造されたカマが多い。

ここで感じることは蒸気機関車時代の乗務員は、設計陣あるいは製造メーカー

に対して絶大な発言力を持っていたということである。少なくともこの時代まで

は鉄道に限らずすべての分野で人間が機械を選び、機械をコントロールして

いた。今はというと表面上はともかく実際のところは、人間の機械に対する

発言力が低下し、かなりの部分において人間が機械に合わせていかなければ

ならない時代であると思う。

さて一般の機関車の乗務員からは不評だった動力逆転機だが、前進・後進を

頻繁に繰り返さなければならないヤードの入換用機関車に対しては絶大な

効果を発揮したので、日本最大のヤードである吹田操車場の入換用D51・

9600や、下の追分機関区所属の39697号機のように北海道の9600形

には動力逆転機が装着された機関車が多く見られた。世の中適材適所が

肝要である。

1974.3. 追分機関区 Photo by: J. Satomi