黒煙防止

1973.8. 後藤寺機関区 Photo by: J. Satomi

鉄道死語辞典も「煙」の話題が多くなってしまい恐縮だが、鉄道創設から蒸気

機関車全廃までの100年間、国鉄は「煙」との闘いに明け暮れたといっても

過言ではない。

もちろん煙を排出するというのは大気汚染の面でも大きな問題だが、それ

以前に蒸気機関車が排出する黒煙は、まずエネルギーの無駄使いだし、

乗客や沿線住民の身体や衣服を煤だらけにしてしまうし、時に乗務員の生命

を奪うことすらあった。経営的にみてもなんとかしなければばらない切実な

問題だったから、黒煙の排出を防ぐために様々な施策が試みられた。

煙の理想はいうまでもなく無色透明である。黒煙は要するに不完全燃焼の

産物だから、これを完全燃焼させれば黒煙はなくなるし、エネルギー効率上も

絶対良いはずだ。

理論上はそうである。しかし実際には必ずしもそうならないことを現場の乗務

員は知っていた。

石炭が完全燃焼すれば確かに燃焼効率はよくなるが、そのためにはたくさん

の空気を送り込む必要があり、火室内の温度が低下してボイラー効率は

むしろ下がってしまう。最も効率がいいのはCO2 15%、過剰空気20%、CO 0.1%と

いうあたりだそうである。これくらいだとある程度の黒煙は排出される。

尾籠な話だが、蒸気機関車の煙は人間の便と同じで、その色と艶で健康状態

を知ることができる。黒くて艶のある煙が適度に排出されるのはボイラーが

健康な証で、赤褐色でいやな臭いのする煙を出し始めるとこれは病気に

罹っている。そういう状態の煙を分析するとC02 12%、過剰空気17%、CO 2%

くらいになっており、普通の黒煙を排出するよりもはるかに危険、2%といえ

ば20,000PPMだからそんな煙を吸い込んだ乗務員は命が危なかった。

(金子巧氏著「汽車のけむり(1)」【鉄道ピクトリアル274号】を参考)