控車

1977.8. 大館駅 Photo by: J. Satomi
「控える」という言葉は解釈が難しい日本語のひとつで、一言でいうとじっと
していることである。
時代劇で聡明な町人がお武家様に意見すると「ええい、控えおれっ!」と
一喝されてしまうが、これは「差し出がましい真似をしないでおとなくして
いろ」という意味である。更に言うと「控える」とは「なにも仕事をしない」と
いう意味でもある。鉄道車輌あまたある中で唯一自らは仕事をしない車輌が
「控車」だった。
営業用の貨車はもちろん貨物を運搬するのが仕事だし、救援車のような事業
用貨車であっても何かしら資機材だとか積載するもので、だからこそ「貨車」
と呼ばれるわけだが控車には絶対に物を積まない。
控車には大きく分けてふたつのタイプがあり、ひとつは航送用の貨車を連絡船
に積卸しする際に、重い入換用の機関車が脆弱な桟橋に直接乗り入れること
がないよう機関車の次位に何輌も連結されるもの、すなわちただそこにいれ
ばいい、いるだけで何もしなくていいという悲しい貨車である。
もうひとつは操車場等で貨車の連結・解放を行う作業員が乗り込んだり休息
を取ったりするのに利用するもので、前者と後者では名前は同じでも、貨車
自身が控えるのか、作業員が控えるのかで、「控える」主語が違っている。
上のヒ600形は後者のタイプで、奥羽本線大館駅に常備されていた。
車体上には非常に小さな木製の控室が設けられ、内部には作業員休憩用の
長椅子が置かれている。また妻板側には前方を確認するための小さな窓が
設けられていた。名前の通り、その構造もとても控えめな貨車であった。

