リンゲルマン氏煙色識別板

1973.8. 後藤寺機関区 Photo by: J. Satomi

蒸気機関車は鉄道車輌の中では最も複雑な形態を有しており、さまざまな

補機類や装置類を装備しているが、ひとつひとつの機能について知りたい

と思ってもそれらについて解説された書籍は案外少ない。SLブーム全盛期

の頃はそれこそ無数の蒸気機関車関係の本が出版されたが、列車写真や

叙情的な解説が中心となったものが多く、ほとんど役に立たなかった。

従って私が蒸気機関車のデフレクター上部に装着された不思議な金属板の

名前と役割を知ったのは、蒸気機関車が消滅してからずっと後のことだった。

この金属板は「リンゲルマン氏煙色識別板」という長ったらしい名前で、蒸機

が排出する煙の濃度を識別するためのものである。この板は1センチ四方

の格子模様で4つの種類に分けられており、格子の太さによって黒い部分

がそれぞれ20%、40%、60%、80%の割合になっている。これを一定の

距離から煙の色と対比して濃度を識別した。

蒸気機関車がもうもうと黒煙を吹き上げながら力走するシーンは勇壮感に

溢れ、ファンにとっては絵になる格好の材料だが、黒煙は要するに不完全

燃焼の産物であり、エネルギーの無駄遣いであると共に大気汚染という

意味でも問題がある。煙の理想は無色である。

特に日本産の石炭は品質が悪く、黒煙が出やすい性質を持っていた。

私は日本の蒸気機関車はある意味ではちょうどいい時期に終焉を迎えたと

思っている。もしあと10年長く活躍していたら、きっと環境保全の観点から

槍玉にあがっていたような気がするからだ。100年間にわたって日本の

陸上輸送を支え続けてきた蒸気機関車を、最後に悪者にして終わらせる

のは忍びなかったからである。