煙室延長機

1963.6. 塩尻駅 Photo by: T. Satomi

一見、何の変哲もない普通の8620形蒸気機関車であるが、よく見るとちょっと

変である。首が長過ぎやしないか。

蒸気機関車は構造が単純で、寒冷地に強いなど多くの長所を有しているが、

同時に欠点も多く、特にエネルギー転換効率が悪いのが最大の泣き所である。

将来的にもまだまだ蒸気機関車が鉄路の主役として活躍すると考えられて

いた昭和初期において、エネルギー転換効率をいかにして高めるかという

実験がさまざまな形で行われていたが、そのひとつとして燃焼である石炭の

燃焼効率を向上するため、煙室を前方に延長した機関車が何輌か登場した。

煙室の容積は通風量、シンダの容量、火の粉の飛散等に大きく関係するので、

その容量を増やすことによって通風を平均化し、シンダを溜め、火の粉の

飛散を抑えることができると考えたのである。火や煙の性質というのは、

案外科学的・物理的な解明が難しく、ひとつひとつ手探りで実験していく

必要があったのだろう。

これらの実験結果については戦災で大部分のデータが失われており、残念

ながら詳細を知ることはできないが、一部ではむしろ煙室容積が小さい方

が真空度が増して通風が平均化するという逆の結果も出たらしく、いずれ

にせよ全体としては期待した効果は上がらなかったようで、煙室延長が一般

の機関車に普及することはなかった。

もっとも蒸機ファンのひとりとしては、かくのごとき不格好な改造が他の全

機関車に施されなかったことにそっと胸をなで下ろす次第である。

上の写真の68683号機は煙室延長実験に供された後も原状には復旧

されず、首長の姿のまま塩尻駅構内の入れ替え作業にいそしんでいた。