レトロ・鉄道シンポジウムT

−このシンポジウムは1964年(昭和39年)発行の朝日放送(株)

社報「アンテナ126号」より転載させて頂きました−

出席者(敬称略)

門根秀次郎(嘱託) 安保彰夫(美術) 堀井卓(工務)

司会:里見太郎(音楽効果)


司会:鉄道マニアが集まったんですが、「趣味は?」と聞かれて「鉄道」というと

   皆けげんな顔をするんですね。「レールの上を走っている鉄道か」、

   「そうや」

   こういうマニアの集まりに”鉄道友の会”というのがあって、全国で会員は

   7800人くらい、朝日放送にも8人ほどマニアがおりますが8人とも対象が

   違うんです。鉄道マニアといってもいろいろあって車輌を専門に写真を撮る

   人、時刻表をバイブルのように大事に持っていて、この列車とこの列車は

   こう接続するから、急行を利用するより普通と快速で行くと何時間早く行け

   るという時刻表マニア、111列車にはどういう客車を組み込んでいるとい

   うようなことに興味を持つ編成マニア、それから鉄道のいろんな施設、入場

   券やはじめての列車の1番の切符をねらうナンバーマニア、いろいろある

   んです。安保さんは小さな、名前も知られていない専用軌道というような

   方面が対象ですね。

安保:大体標準型以外のゲテモノとか、非常に古いもの、とくに蒸気機関車が

   好きです。

門根:私は、皆さんのように専門化してないんですが、方々へ行って、好きだか

   ら写しているんですが、蒸気機関車が多いですね。

堀井:僕は国鉄でも、私鉄でもどっちでもいいんです。走っている写真、景色

   なんかいれたものを主にとります。それから田舎の線の汽車に乗ったり

   するのも好きですし、切符を残しておいたり、入場券も集めています。

司会:テレビ中継の中島忠夫さんは、非常に蒸気機関車に情熱を持って、とも

   かく日本のレールの上を走っている蒸気機関車は1輌残さず写しておくと

   意気込んでいますし、テレビ営業の山本定祐さんは報道に前おられただけ

   に、開通式なんかがあれば、とんでいって必ず写してます。僕は貨車と

   トロッコ以外の日本の車輌全部を写したい。欲ばっているんですが。

   各人各様ですね。

門根:中島さんと僕のなれそめは昭和32年ごろでしたか、テレシネの部屋へ

   行ったら鉄道ピクトリアルがおいてある。こんなところでこんな雑誌がある

   のはおかしいと思って、だれが読んどるのやというと、中島さんが、僕の

   やつですというんです。ここにも鉄道マニアがいるというわけで、お茶でも

   飲もうやということになった・・・・・

司会:朝日放送で鉄道マニアが集まって、マニアであると打ち出したのは5年

   くらい前ですね。マニアになったのはたいてい幼稚園のころからだ。

門根:あなた方が写された車輌でも、随分なくなってしまったのがあるんじゃ

   ないですか。そういう意味では貴重な記録ですね。

司会:たしかに、この車輌がなくなると写せなくなると思うと、写しておかないと

   いけないという義務感があるような気がして、そうなると趣味を越えてきま

   すね。そうして日本全国、北海道から鹿児島まで、車輌を追っかけて写し

   回っているんですが、苦労した話とか、ひやっとした話、何かないですか。

安保:一昨年、東北を回ったとき、上野から新津に行って、新津で乗りかえるん

   ですが、着いたのが朝の5時ごろで、乗りかえ時間があるので、腹ごしらえ

   をと思って、そばを食べてたんです。気がつくとベルが鳴っている。僕の

   乗る汽車だということを忘れてたんですね。ぼんやり聞いてたら発車しか

   けている。はっとして食べかけでブリッジを渡っているひまもないので、

   線路の上に飛び下りて、やっとこさでぶらさがって乗ったんですが、あの

   ときはひやっとしました。それに乗り遅れたら、あとの計画はめちゃくちゃ

   になってしまうんです。

司会:大都市の交通機関なら、1台乗りそこなっても別にひやっとしないが、

   辺ぴなところで1台乗り遅れると大変なことになりますからね。

門根:僕、ひとつあるんです。瀬野へ行ったとき、上り列車を写しとったんです。

   あそこは上りは勾配がきつくてゆっくりくるが、下りは逆で、ものすごく速い

   し、惰行してくるので、音がしないんです。予想しとらんのに下りが来まし 

   て、それでもやっぱりシャッターは押しましたよ。Cの62と59がすれ違う

   ところが写りましたが、びっくりしましたよ。

司会:ひやっとしたことが転じてすばらしい写真がとれた。

堀井:僕はそういう経験ないんです。よく線路に入って写している人があります

   が、ああいうの、どうもこわいですね。

司会:僕は近鉄の天見駅で、あそこは上下線のほかに中線が通ってるんです。

   駅の状況からみて、これは当然下り急行の通過線路だろうと思って、上り

   列車が入ってきたのを中線の上でカメラを構えていたんです。そうしたら

   助役が駅長室から飛び出してきて、「あぶない!」とどなった。僕は電車

   よりも、そのものすごい怒号と顔がこわかって、飛び退いたんですが、その

   瞬間に上り急行が中線を通過していきました。あのとき、あの助役が駅長

   室からのぞいていなかったら、ひかれて・・・

門根:名前が変わっていた。

司会:普通でも交通事故が多いのに、危険なところへ好んで行くんですから、

   あぶない話ですよ。

門根:臨時ダイヤがあぶないですね。以前、ダイヤの乱れているとき、「つば

   め」を写していましたら、外線通ると思っていたら中線通るんです。ああ

   いうのがあぶないですね。

司会:素人なら、線路があれば電車が通ると思って立たないが、マニアは

   「つばめ」は外線を走るとか、この中線は下り列車は通過せんだろうと状況

   判断をするから逆に危険が多い。

堀井:ローカルの単線のところは、その点よろしいね。赤穂線へ行ったとき、

   国道だとトラックがしょっちゅう通るでしょう。線路歩いている方が安心感

   があるんです。

司会:いまの話と逆に、愉快な話はありませんか。ひやっとしても、無事で、何も

   なければ後で愉快な話になるわけですが。

門根:マニア一同と出かけるときは楽しいですね。

安保:北海道の松前線の知内村の森越というところに2フィート6インチの

   ゲージの汽車があるというので、行ってみたんです。駅へ行っても要領を

   得ないし、何かあっちで走っているというようなことで、とにかくどんどん

   いくと煙が見えるんです。ストーブの煙かな、と思って見てたら、煙の出

   具合に特徴があるんですね。これは間違いないと思ってうれしかったです

   ね。しばらくすると、ゴトゴトちっちゃいのが走ってきて・・・・

司会:車庫なんかへ前もって何月何日に出かける、何号車を写したいからよろ

   しくお願いしますと連絡しておいて、行ってみたら、こちらの頼んだ車を

   出庫止めにしておいてくれる、うれしいですね。

門根:ああいうのは、全く感激しますね。どういうてお礼いったらいいかわから

   ない。最近はどこへ行ってもマニアを信用して、非常に便宜をはかって

   下さるのは、ありがたいですね。

司会:趣味から脱線しますが、三河島事故、鶴見事故などについてマニアとして

   どう感じられますか?

門根:実際、自分でも身を切られるような感じがしますね。それにしても、ちょっ

   と最近多すぎる。新聞では、現場の士気のたるみとかいっているが、それ

   ばかりじゃなく、何か別のものがあるんじゃないか。

司会:連続的ですからね。

門根:中央公論に指導機関士の人の話が出ていましたが、現在の過密ダイヤ

   で、そのうえスピードはどんどん上がりますし、何でも10秒に1つの割合で

   信号を確認しているそうです。そんなこと、人間わざでできることじゃない

   ですよ。

司会:現場の運転士の話を聞くと、国鉄には運転細則があって、これによって

   運転しているんですが、現在のダイヤではこれが守られない。中央線を例

   にとると、東京へ到着した列車がすぐ三鷹なり浅川へ引き返す。そのとき

   に、来た電車の運転士が折り返し反対の運転台へ走る。10輌編成だと

   200メートルです。そして細則によると、出発信号機を確認し、喚呼して

   ノッチを入れる。そんなことしてたら遅れてしまうんです。やむを得ず、

   飛び込むなりノッチを入れて、乗務台ドアから後ろをながめて、ドアがしま

   っているか、乗客がはさまれていないかを確認してスピードをあげていく。

   これなんか完全に細則違反ですが、違反しなければダイヤが保てないとこ

   ろに矛盾があるんですね。

門根:放送の事故ならお金でことがすむが、向こうは人命ですからね。根本的に

   もっと原因を考えなきゃ。厳格な訓練をするとかいっているが、それも大い

   に必要だが、それだけでは解決できん問題が潜んでいますよ。

堀井:スピードアップしますと同じ勤務時間でも距離が長くなるので、車掌の人

   でも疲れるといってますね。

門根:それと、神経の使い方が違うんじゃないですか。昔みたいにのんびりと

   運転していられないでしょうからね。

安保:過密ダイヤは、自分でダイヤ引いてみたらよくわかりますよ。東海道線

   なんか、おそろしくなりますよ。スジ引くところなくなるんです。

門根:よく、虫めがねで見ないとわからんといわれますね。

堀井:多いのは東京、大阪、北九州ですね。

安保:東京、大阪の夜間急行は10分おきに出てますね。

堀井:その間に普通列車が入りますし・・・・

司会:貨物列車も間に入るし、回送車も通るということになると時刻表の2倍も

   3倍もの列車が実際線路上を走っているということになりますね。

堀井:それも、同じ速度の列車ならいいが、みな速度が違うから困るんですね。

司会:だからいったん事故でも起って、現状に復帰するには1週間ぐらいかかる

   んだそうですよ。

堀井:事故の数からいえば、特急なんかより通勤列車の方がはるかに多いです

   ね。お金が高いとそれだけ安全ということですね。

司会:鉄道マニアは、鉄道の内部のいろいろなことを知っているだけに、事故が

   起ったら、またやりよったかというより、やってくれたか、あゝ・・・・と何とも

   いえん気持ちですね。そこらが一般の利用客と違うところですね。

門根:この前、岡山に行ったとき、僕らの乗ってる前の貨物列車が脱線したんで

   すが、おもしろいことはおもしろい。早速、写真とりに行って帰って話をした

   ら、しかられちまって、なんでニュースソース持ってこないか。

   どうも現場離れているとピンとこなくなっていかんです。職業意識聞かして

   やらにゃいかんのに。

司会:事故だけはなくしてほしいですね。日本の鉄道技術は世界一だといわれ

   たのも、世界一になったんじゃなくて、ならざるを得なかったからですよ。

門根:そこに無理があるんです。追われ追われてあいうダイヤになったので、

   計画的にああいうダイヤ作ったんじゃない。そこらに盲点が潜んでいると

   思いますね。(続く)


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