


阪急沿線に生まれて22年間を過ごしてきた人間にとっては、阪急電車の特異性というものがかえって理解できていなかったかもしれない。だから他の沿線に住む友人から、先頭車のダブルパンタが格好いいといわれても、いまひとつピンとこなかった。むしろ自分とは縁のない沿線を走る近鉄ビスタカーや東武DRCの度肝を抜くような豪華さの方に憧れを感じた時期もあった。鉄道に限らずおよそ豪華さというものには、非日常の豪華さと、日常の豪華さの2種類がある、ということに気がついたのはある程度年齢を重ねてからのことである。非日常の豪華さというのは、観光・レジャーであり、初詣であり、お祭りであり、要はハレの場であるということで、ある意味理解しやすいのに対して、日常の豪華さというのはちょっと言葉で説明するのが難しい。日常の豪華さという概念を電車で具現化しようとした鉄道会社が阪急電鉄であり、その集大成的な作品が1964年(昭和39年)に登場した特急用の2800系だったと思う。技術的には1960年(昭和35年)デビューの2300系を踏襲しており、2800系で革新された新機軸は何もない。観光用特急車では既に必須となっていた冷房装置はなく、台車もエアサスではなかった。しかし車内の落ち着いたムードは阪急伝統のもので、音もなく開くバランサー付の一段下降窓、マホガニー調のアルミデコラの化粧版に囲まれ、座席は毛足の長いアンゴラ山羊風のモケットが深緑に沈み、白い枕カバーが高級感を引き立たせた。何を豪華と感じるかは人それぞれであり、こうあるべきというものはない。ただ阪急沿線から遠く離れた土地に住み、世の中に原色系の子供っぽい豪華さだけが氾濫する21世紀を生きていて、当時の2800系は今の鉄道車両に欠けている、少なくとも外観はパチンコ店で内装は安キャバレーのような寝台特急を「豪華」と感じるのではない大人の感性を持っていたと気づくのである。上の写真は2800系がまだ運用に入る前、試運転のために正雀車庫に到着したところを撮影、デビュー時は2800形とは反対方向の制御車2860形にも2基のパンタグラフが装備されていた。 |
